2007年、最近に感じてしまうが、もう10年前だ。前年の死闘の末、およそ廃人となった僕。この年は立ち直るためだけにあったようなものかな。このあたりから写真に対する心も少し変化する。カメラマンをやっていくからには、徐々にデジカメというものを使わなければいけなかった。なんにもわからなかったけど初めてパソコンも使って、ようやく仕事先の人ともちゃんとした(笑)やりとりができるようになった。
その年始め、廃人の僕に親友から電話があり、家具屋の友達がお前に展示をやってもらいたいみたいだぞ、とのこと。写真なんて撮る気も起きなかったので、また7年間分の写真からリハビリをするしかなかった。たくさん写真はあるので、自分がそう思えば作品はできそうなもんだ。アンティーク輸入修理家具屋なので、ものすごくいい写真だけを選んで、たまには額に入れて販売した。銀座で個展の若手作家という変なプライドがあったので、少し高い価格を設定したと思う。
でもそれだけじゃ自分を取り戻せない気がしたので、04年から書き続けてきた日記的啓発文章をすべて読み直し、今必要であるものを選んで、書き直したり抜き出して並べたり、ものすごい時間をかけてひとつの物語を作る。流れで読むと、自分だけは超泣けるシステムになっている。その文章の流れに合うような写真を選び(だから写真の流れは無視)、手書き文章と写真を合わせた展示となった。人は元気を失うと小さい文字になるらしく、これはかなり読みづらかったと思う。展示タイトル「edelweiss / 写真は写真」、エーデルワイスは大学の卒業制作(写真と文章の本を作った)と同じタイトル。執着する必要があったのかどうかは、今の僕にはわからない。でもこの展示のやり方は、もう少し心に余裕がある状態なら、もっといいものができるような気がする。
展示の時、花屋さんの先輩からその苗をたくさん仕入れてもらって、欲しい人にプレゼントした。これは丁寧に世話をしてもこちらの気候に合わず、すぐダメになってしまうような花で、僕は個人的にその存在が好きだったのだけど、たぶん写真含めてそういう感じの展示にしたかったのだと思う。
それが終わったら、次のリハビリ手段として僕のホームページも作った。何百点も写真が載っているクレイジーなもの。文章も結構並べて、とにかく僕は自分の物語をそのまま閉じ込めるやり方を好んだ。僕はパソコン関係は弱いので、これは美大時代の仲間が、懸命に手伝ってくれた。
それでも自分を取り戻せていない感じだったので、夏にイギリスとスコットランドを20日間くらい旅をした。現在の僕は旅しかしていない印象を人に与えているが、海外に一人だけで行ったのはこの時くらいだな。しかもロンドンに友達が暮らしていたから行けたようなもの。この時は本当にがんばって僕の写真を撮ったと思う。今見るとついていけないくらい素晴らしい。旅自体を楽しむ感じではなかったけど、結局のところ自分の傷は自身で癒していくしかない。この旅は本当に必要だったなぁって思える。
この年に30歳になった。カメラマンとしては軌道に乗ってきたらしく、デジタルになって戸惑いはしたけど、今の僕よりもはるかに稼いでいるじゃないか(笑)それで自分が喜んだかどうかは別として。ここから僕は、しばらく写真展をやらなくなる。こんなに自分のことに躍起になるのではなく、周りにいる素晴らしい人たちに目を向けるようになる。でも僕にできることは写真だけだった(今もそうか?)ので、それで誰かの役に立てるなら、それはそれでいいかもな、そんなことをようやく思えるのである。
#3412-07-01 / Saori and Aya / A hunch 5