旅から写真へ、写真から旅へ。
ついさっき、近所のフォトカノンにフィルムを73本(2700コマほど)預けてきた。今日は月2回の現像半額日なのだ。パジャマ姿同然でフィルムを出しに行けるなんて、どこまで日常かって話だ。出発前に用意したカメラの電池がぎりぎりで巻き戻しが叶わず、最後に詰めた1本だけ、まだカメラの中にある。旅に出る前の僕なら許せない感じだったろうが、それが今すごく心地よい。
キューバに入国する時のX線検査で、1度だけもろに浴びさせることになった。観光だけに感光の心配ですよ。南米旅の時は2回くらい浴びせても平気だったけど、もうフィルムはいやだなあ、なんてことをいつも思う。セクシーな網タイツをはいたキューバ女性検査官の、今日のワタシはそれがなんであれ荷物を通すのよ、という恐ろしい態度。これが最初のキューバの印象になった。
最後メキシコシティーの空港での検査は通さずに済みはしたけど、アメリカ並みの厳重チェック。ひとりだけ別扱いで、フィルム73本を前に検査官がここにはいない誰かとトランシーバーで僕の情報を交信、数はセテンタ・イ・トゥレス(73)だ。
こうなるとなにか本当に悪い事した人みたいな気持ち。僕は自分で前世はスーパー犯罪者であった意識がたまにどこかにあって、よくそんな夢もみてきた。残念ながら、巻き戻しが完了していないカメラだけは、通さなければならないぜ。今日の彼女の網タイツには、フィルムは73本までしか入らない。フィルムの本数は、罪の数。
いけない、旅から戻って希望に希望っと。
写真のフィルムに油性ペンで番記し直して、近所の写真屋に行くだけで1時間。この先大量のフィルムシートと向き合い、1点1点データ化していくことは1番の楽しみではあるが、それだけで1ヶ月くらいはかかるなーと思う。62日間の旅が半年分くらいに感じたならば、その1ヶ月は果たして3ヶ月分くらいに感じるだろうか。
キューバで買ってきた8枚のCDを、昨日からずっとずっと聴いている。僕が適当にジャケットや写真だけで判断して選んできたものは、僕が希望したものだった。本当にそうだった。彼女が自分の眼で見て選んできたものも、きっとそうだろう。
どこかでこれは懐かしい、旅から写真へ、写真から旅へ。
限りない、無心の世界との戯れを、ずっと。
#3259-16-04 / Setenta y tres(73)